最高裁判所第二小法廷 昭和49年(オ)660号 判決 1974年11月22日
上告人
徐玉岩
右訴訟代理人
山田慶昭
被上告人
李出伊
被上告人
朴寿源
右両名訴訟代理人
鈴木惣三郎
上田勝義
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人山田慶昭の上告理由一ないし三について。
所論の各点に関する原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同四について。
論旨は、原判決は山村幸から氏名不詳者への占有の承継が行われたと認定しているが、これは被上告人李が主張しない事実を認定したものであつて、民訴法一八六条に違反する旨主張する。
しかし、被上告人李は、十川孝三が昭和二一年頃本件建物を買受けて占有を開始し、次に山村幸が十川からこれを買受けてその占有を承継し、さらにそのうち⑤⑥の部分を山村から吉村春吉、吉村から金長運、金から被上告人李が順次買受けて占有を承継し、右十川以下の前主の占有を併せると、十川が占有を開始したときから二〇年を経過したとき(おそくとも昭和四二年一月一日)には、⑤⑥の部分につき被上告人李のため取得時効が完成した旨主張しているのであつて、右主張は、仮に山村幸と吉村春吉との問に占有承継人として別の訴外人が介在することが証拠上認められるとするならば、その訴外人の占有をも前記取得時効の期間として主張する趣旨を含むものと解するのを相当とするから、原判決に所論違法はない。
その他所論の各点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同五について。
論旨は、原判決の認定にそわない事実を前提としてその違法を主張するものであつて、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(岡原昌男 小川信雄 大塚喜一郎 吉田豊)
上告代理人山田慶昭の上告理由
<前略>
四、原判決の引用する第一審判決は一三枚目において
⑤⑥の部分については山村幸が十川孝三から本件建物を買受けたときには氏名不詳の訴外人(おそらく複数)が居住していたが昭和二七年ごろ訴外吉村春吉とその父親がその半分(別紙物件目録添付図面表示公道よりの半分以下⑤の部分と呼ぶ)を前主(氏名不詳)より譲受けて直ちに居住を始め(現実の入居は春吉よりも父親の方が先、厳密にいえば父親が譲受けて居住を始めそこに春吉も同居するようになつたもの)その後残りの部分(⑥の部分と呼ぶ)についても前主金庚植から譲り受けて居住を始め……
と認定した。
山村幸に仮に占有ありとしても、吉村春吉に至る占有の承継は認定されていない。山村幸の占有と氏名不詳者の占有との間は断絶している。
ところが第一審判決の一四枚目裏、七行目から一五枚目にかけて次のとおりの判示がなされている。
以上のとおり認定された事実を前提にすると次のようにいうことができる。昭和二一年中に十川孝三によつて始められた本件建物の占有はその後昭和二五年二月に山村幸に引き継がれ、その直後、山村幸から……⑤⑥の部分については氏名不詳の訴外人(おそらく複数)に承継された。以後……後者については、そのうち⑤の部分は氏名不詳者から直接あるいは他の氏名不詳者を経て⑥の部分は氏名不詳者から金庚植を経ていずれも吉村春吉(とその父親)へ……承継され……
この判示部分では山村幸から氏名不詳者への占有の承継が行われたごとくなつている。
この判示部分は被上告人の主張にも出ていないし(原判決事実摘示部分参照)全証拠のどこにも顕れていないことである(民訴法一八六条違反)。
推論ともいえないものであつて自由心証主義の法規を逸脱したものである。のみならず判決理由中において前の部分と後の部分とで論理的に矛盾しており一貫性を欠いているから理由不備にあらずんば理由齟齬(民訴法三九五条一項六号)の違法がある。(最判昭36、2、14、三小、判時二五一号一三頁)
先に引用した第一審判決一四枚目の「父親が譲り受けて居住をはじめ、そこに春吉も同居するようになつた」旨の認定は当事者の主張もなく証拠にも顕れていない。(民訴法一八五条一八六条違背)
事実は吉村春吉は本件⑤⑥の部分に父と一緒に同居したことはなく、吉村春吉の父は近隣の他の家に居住していたのである。吉村春吉は初め⑤の部分に昭和二七年に妻と入居し、あとから⑥の部分といつしよにして、⑤⑥の部分で昭和三八年四月迄居住している。その間吉村春吉は、所有の意思を以つての占有は毛頭なく、本件建物は上告人所有建物であることを知つておつたこと、家賃替りに地代だけは地主に払わなければならないと父から聞いておつたので地代だけ払つておつたこと、移転する時家の所有権とは関係なく家具、居住権等を金山表運に売買したこと、全く所有意思を以つての占有ではなく他主占有であることを明らかに証言している。<後略>